原田源五郎『魔王っぽいの!』3巻(ガガガ文庫)読了

 魔王っぽい女の子・マノと、マノによって勇者っぽい設定にされた主人公・颯太が、勇者と魔王の伝説を打ち立てるべく奮闘しそうでまったくしないコメディ第3巻。今回はマノの部下・美少女スライムに中ボス認定試験を受けさせることになり、その中の一部門・アイドルとしてデビューさせるべくマノや颯太、颯太の幼なじみである奈尾がプロデューサーとしてがんばるという、まあアイドルマスター回である。奈尾はなるほど律子キャラではある。ドラマCDが出るなら声は若林直美かね。
 颯太はエロのことしか頭にないバカだけど、いざというときはみんなの力になってくれる。マノはどんくさいしアホだけど、スライムのことを思いやり、応援してくれる。RPGマニアの奈尾だって、なんだかんだでマノに協力してくれる。マノの妹・イサミも姉以外には魔王さながらの態度むき出しだが、決して悪人ではない。大魔王もたぶん。そして、気弱だけどいつもマノのために一生懸命なスライム。内藤さんはまあ置いておくとして……ひとりも悪い人間がいない、気持ちいい作品だ。
 しかし、スライム推しが2巻続いてしまった(前巻もイサミ萌えというよりは、実質的にスライム萌えだった)ことで、この先どう展開させるか考えどころになってきた。そろそろハイスペック幼なじみな奈尾にも、もうちょっとスポットを当ててほしかったり。とはいえボーイ・ミーツ・ガールが要諦のライトノベルにおいて、幼なじみは必然的に割を食う運命にあるわけで……うーむうーむ。

評価:★★★☆☆

原田源五郎『魔王っぽいの!』2巻(ガガガ文庫)読了

 勇者と魔王の伝説が大好きな大魔王の命により、それっぽいエピソードを作りにやってきた“魔王っぽいの”・マノと、彼女によって“勇者っぽいの”に設定されてしまったエロゲ大好きな主人公・颯太のドタバタコメディ第2巻。激しい戦いの末、最終的にマノが倒される(フリをする)ことで「魔王とはすごいヤツだった」という伝説を残せれば目標達成なのだが、いかんせんマノは勇者のことも魔王のことも何もわかっておらず、颯太もエロいことしか頭になくてマノが呼びだした美少女スライムに鼻の下を伸ばしては、マノやRPG好きの幼なじみ・奈尾に怒られてばかり。
 そんなところへ、マノより全然デキる(主に勇者を調教、もとい鍛えあげるという意味で)妹・イサミが姉を手伝いにやってきて、勇者をハートマン先任軍曹バリにシゴき倒すと宣言するものだから、颯太はマノの部下“エロ魔人”を名乗って逃げ回る。おかげで事態がややっこしくなっていく。
 相変わらずマノもイサミもつるぺた設定を無視したそれなりの乳っぷりで、編集者仕事しろというかそういう方向に仕事をしてくれるなと言いたくなるのだが、まあ絵もかわいくて、気楽に読める軽妙洒脱な“マンガっぽい小説っぽいの”としては十分な出来。ヤマ場では颯太もそれなりに真剣に、熱くなるし。これと、同じくガガガ文庫『魔王が家賃を払ってくれない』の両シリーズが、コミカル方面の“魔王×勇者”ものとしては実はそれなりに巻数を重ねているのである。前者は4巻、後者は5巻が来月発売。楽しみだ。

評価:★★★★☆

上野遊『魔王のしもべがあらわれた!』3巻(電撃文庫)読了

 同人誌作りと仕事に追われて、2週間ほど更新が滞ってしまった(それ以前は月イチ更新とかだったけど)。
 個人的に好きな作家の新シリーズの第3巻である。あいっかわらず美弥と主人公・明のあいだに過去何があったのかには触れないままで、もしかしてこのまま美弥はちょっとした賑やかしとして適当に使い捨てられてしまうのではないかという危惧を抱かずにはいられない。
 ただ、要のバックグラウンドが、かなり唐突にではあるが明かされたのは面白かった。自らも“影響者”である彼女が(自称魔軍四天王の)シュバルツリヒトや大虎・小虎ら影響者を研究する理由が、救いたい人がいるからだったというのは納得がいく。と同時に、前巻で大虎・小虎を保護したのも、おそらく全面的にではないにせよ功利主義的な考え方によるものだったというあたり、彼女の鹿島グループ継承者としての顔が表れている。こういう多面的な人間像を描けているのは評価に値する。
 あと、いよいよ明とシュバルツリヒトの素性が明らかになってきそうだ。明の正体は魔王であり、自らをその部下だと言い張るシュバルツリヒトですら、本来の姿ではない可能性が示唆されている。話が大きく動きそう――ということは、少なくとももうしばらくシリーズは続くということで、いやー3巻打ち切りとかにならずよかった、ホント。肩入れするシリーズが終わるのは悲しいものだ。とはいえ4巻で終わる可能性も残っているわけで、まだまだ油断は禁物だが。
 あ、水着回であったことについては特に感想なし。そういう「お約束」をこなそうがこなさなかろうが、話が面白ければいいのだ。

評価:★★★☆☆

館山緑『誓約のマリアージュ 甘やかな束縛』(ジュリエット文庫)感想

 さて、今回は「乙女系ライトノベル」なる、おおよそ100人前後のこのブログの読者には見慣れないであろうジャンルを取りあげよう。
 平たく言えば、ボーイズラブのヘテロ版である。……平たくなってない? じゃあ、性描写アリの少女小説と言い換えようか。今のところ、ティアラ文庫(プランタン出版)・マリーローズ文庫(コスミック出版)・ジュリエット文庫(インフォレスト)・シフォン文庫(集英社)の4レーベルが覇を競っているが、やはり一番乗りしたティアラ文庫が強いようだ。このあたりは、知人の同人サークル・NMBLPで頒布している同人誌『ティアラ文庫総解説』シリーズに詳しい。彼女たちが「ティアラ系」と呼んでいるこれらの作品を総レビューしているので、ご興味がおありの方はCOMIC ZINなどで入手されたし。
 で、ぼくが最初に読んだ乙女系がこの作品。高名な建築家だったメルヒオール・ドレスラーが全財産をつぎこみ、孫娘である主人公・グレーテルの代になってようやく完成を見た館「エーヴィヒトラウム」が舞台である。どうやら近世ドイツの領邦国家あたりを想定すればよいらしい。数十年にわたる館の建設のため、莫大な借金を抱えたドレスラー家は、もはや館を維持することすら不可能。暗澹たる思いを抱えたグレーテルの前にある朝、ひとりの少年――フェリクス・ディッテンベルガーが現われる。幼いころに一度会っただけの、豪商の息子であるフェリクスは、館を借金ごと買い取るので結婚してほしいとグレーテルに迫り、半ば強引に肌を重ねる。自分は館のおまけに過ぎない、それどころか豪奢な館に見合うだけの価値もないと感じていたグレーテルはひどく戸惑うが、フェリクスの押しの強さに負け、自分が本当に愛されていることを感じていく。館を買い取りに来た間男も押し退け、2人は結ばれるのだった。めでたし、めでたし。
 まあ、ダダ甘のシンデレラ・ストーリー、ただし濡れ場アリ、と思っていただければけっこうである。作者とはtwitterで相互フォローしていて顔見知りでもあるので、このジャンルの作法がなんとなくわかったとmentionしたところ、むしろジャンル作法はかなり外しているほうだと思う、というお返事をいただいた。あとがきでも、館モノが大好きで、相当趣味に走った旨が記されている。いや、それでも、強気な攻に押しきられて愛される喜びを知る、というストーリーのパターンは掴めた気がする。知人の作家はボーイズラブにおけるこの展開を「強姦されてハッピーエンド」と呼んでいたが。強姦ではないにせよ、こんだけ無理やり唇やら純潔やらを奪われて文句は出ないのか、とは思った。 続きを読む

小河正岳『ようこそ、フェアリーズ・インへ!』1・2巻(電撃文庫)感想

 『お留守バンシー』で第12回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞した、小河正岳の最新作。やはり安定して筆力が高い。
 駆け出し冒険者のラウル・ジャスアは、〈妖精のとまり木〉亭(フェアリーズ・イン)という宿屋に宿泊しているが、宿代はツケたまま溜まる一方。そんな折、女将が倒れてしまう。そこで急遽、孫娘である魔法学院の生徒、ミリセント・ルフェ(ミリー)を呼び戻すことになったのだが、古代帝国の遺跡で魔法の訓練中だった彼女のもとへ向かう途中にことごとく危険なトラップを踏んでしまい、命がけで辿りついたラウルのことを、ミリーはすっかり偉大な冒険者だと信じこんでしまう。そんなラウルやミリーの周囲に、放浪の民ヤシャフの少女エルミーネや、ラウルが遺跡から持ち出した宝を目当てに迫ってくる美少女ルネルヴァ・ミシュランといった女子たちが絡んできて、騒々しいけれどのんびりとした日々が展開される――。
 さすが大賞作家だけあって、小説としては文句なしによくできている。キャラクターの数を絞りこんで、それぞれをきっちり“描写”することで個性を際立たせている。言い回しこそエルは古風、ルネは高飛車と記号的ではあるものの、それに頼りきってはおらず、そういう言動がその人物から発されるのがごく自然であるように描かれている。ぼくとしては、たいへん好印象である。
 2巻で、いつの間にかラウルに惹かれていくミリーの心情描写も上手い。ルネの元へ強引に連れていかれてしまった彼が、心の中で大事な存在になっていたことに気づいてさめざめと涙するシーンはぐっときた。天然気味の彼女が、ラウルをめぐってルネに真っ向から張りあうあたりもよい。完全に恋する乙女モードなのだが、地の文では示唆するにとどめ、エルなどの台詞で間接的に表現している。繰り返しになるが、小説としてはたいへん上手い。
 問題は、それをライトノベルというエンタテインメントの形式に落としこめていないことだ。むしろ一般文芸の手法なのである。愛読していた『お留守バンシー』のときにも感じていたが、この作者の文章はやや端正にすぎるきらいがある。ぼくは大好きなのだけど……。メディアワークス文庫などで光るタイプなのかもしれない。ともあれ、3巻からのインターバルが1年近く開いてしまうことが確定しているので、一刻も早く続きを読みたい。

評価:★★★★★